東京高等裁判所 昭和38年(ネ)445号 判決
凡そ賃料前払の特約がある場合に、既にその特約に基いて当期の前払が全部為された場合には、その前払に相当する期間の経過前に為された賃料値上の意思表示は、仮令それが客観的に相当と認められる場合であつても、その意思表示の時から効力を生ずべきでなく、次の前払に相当する期間の初から効力を生ずるものと解するのが条理上当然である。本件に在つては前記認定の如く昭和三三年四月一日以降同年九月末日迄の賃料の大半(十一分の十)が前払された後に前記値上の意思表示が為されたのであり而も同年四月一日に遡つて値上が要求されたこと前段認定の如くであり、右値上が右六月当時に於いて客観的に正当である点については必ずしも適確な証拠なく、また被控訴人は当時右値上を不満とし必ずしも之を承諾したのではなかつたが、次期(同年一〇月一日以降翌年三月末日まで)の前払の時から右値上通りの賃料を支払つた事実は本件弁論の全趣旨により明らかであるから、以上諸般の事情を勘案すれば、控訴人等の為した前段認定の値上の意思表示は昭和三三年一〇月一日以降その効力を生じたものと解するを相当とする。
(鈴木忠 加藤 宮崎)